身彩る、深紅















あまりに鮮やかな紅に、目が眩みそうになる。

濃厚な血の臭い。

ぐい、と口を拭う。

紅。

血。

幾千、幾万度と見てきた命の水。

生けるものの血管を流れる内はその命を保ち、躍動を象徴する。

体外に流出すれば、それは生命の危険、あるいは喪失を意味する。







今、視界を染め上げているのは、唯一と定めた少女の血。

追っ手から受けた内の、殊に大きな傷のそれぞれから、止めどなく鮮やかな深紅が流れ出る。

放っておけば死に至ることは間違いない。







傷口に唇を押し当てる。

組織の再生と修復を強く促す力を舌に、吐息に込めて注ぎ込む。

傷を舌で撫でる度に味わう、生暖かい剥き出しの肉や断ち切られた筋肉の繊維の感触。

そして、厭な温かさをもつ、顔を顰めたくなるような、ぬめる鉄の味。

飲み込む。

喉を通るときに、甘く感じるのは――宿る力のせいか、この存在に囚われる心故か。

……ラエスリールが傷つくことなど、望むはずもないというのに……。







傷が完全に塞がり、滑らかな肌が戻ると、舌で辿る感触も全く変わってくる。

いつまでも触れていたいと思わせる、極上の柔肌。

そして……それ以上を望む自身がいる。

離せなくなる前に、顔を上げる。

ラエスリールと、目が合う。

自らの血に彩られて、その美貌は凄艶だ。

躯にまといつく深紅が、少女の危うさと苛烈な半生を思い起こさせる。

鮮血の強い色さえも引き立て役へと変えるのは、強烈に輝く色違いの双眸。







ふい、と少女が頬を染めて顔を背けたのに、我に返る。

重い傷はまだ残っている……惚けている場合ではない。

気を取り直して、抉られた脇腹へ唇を寄せる。







快いとは死んでも言えない、舌触り。

それでも直に、それも唇で触れる理由のひとつは、ラエスリールの受けた傷を出来うる限り記憶に留めるためだ。

言うまでもなく、親密な触れ合いを求めることも大きな要因ではあるが、

治療を施し、痕も残らぬほどに完治させるからと言って、怪我をした事実は消えないのだから。

ラエスリールの負った傷、流した血、失った組織。

ひとつ残らず。

共有することで軽減しようと思っているわけではない。

ただ淡々と、自らに刻み込むだけだ。







危険で美しい紅で、少女が身を彩るのはこれが最後ではない。

運命の波が近づいている。

大きな嵐が待ち受けていることは疑いようもない。

だが、失えないから。

喪うつもりはないから、出来うる限りを――自分の仕事をするだけだ。







そしてまた、闇主はラエスリールの傷へ口づける。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



闇主の治療って、役得と言えばとっても役得だけど、あたしがもしそういう力があったとしても出来ないなあ。
と、思って書いて見ましたー。
いえ、つまり。闇主の治療って結構辛いんじゃないかと思って。
で、読み返して、あれ?(笑)
闇主さんの思考……のろけてる!?そんな気なかったのに!(ほんとか?)
闇主が治療の面で本当にシリアスになるのか、半信半疑で書いてたからいけないのね…

いかがなものでしょう??
いまひとつ、何だろう……視点の徹底が出来てませんか。


2作連続黒背景に赤文字で見にくくてすいません〜〜〜ι

2003.2.13.



BACKHOME
[PR]動画